絵のバランスがうまく取れない…その原因と練習法を解説

こんにちは。文京区本郷の美術教室「万象舎」で講師をしている篠原です。絵を描くとき、こんな悩みを感じたことはありませんか?

  • 「形が歪んでしまう」
  • 「全体のバランスがうまく取れない」
  • 「間違っているのはわかるけど、どこを直したらいいのかわからない」

こうした悩みは、絵を描く人のほとんどが経験すると思います。私も以前は同じような悩みを抱えていて、時間をかけても形が合わない、本を見て練習しても上達しない、センスがないから無理かも…、と思ったこともありました。

しかし、「正しい練習の方法」を学び、それを続けることで、バランスよく描けるようになりました。そして、デッサンを教える仕事を始め、この方法を生徒に合わせてアレンジをして教えると、ほとんどの人が短期間でバランスを改善できました。

この方法で色々な人に教えて、絵のバランスを取る力は誰もが本来持っている力だと思うようになりました。

この記事では、初心者の方がつまずく原因と、それを解決する具体的な練習方法をご紹介します。お悩みを解決して、絵を描く楽しさと自信を取り戻すきっかけになれば嬉しいです。


目次

バランスが取れない原因:よくある間違いとは?

絵のバランスが崩れる原因として、初心者に多いのが「当たりの付け方」に関する間違いです。

「当たり」とは?

当たりとは、絵を描くときの手がかりになる補助線のことを指します。例えば、「顔の中心に十字線を引いて、目や鼻の位置を揃える」「指の角度や長さを揃えるための基準線を描く」「遠近感を整えるためのガイドとなる線を引く」などのことです。

「当たり」は本来、絵をバランスよく描くために役立つものです。しかし、初心者の場合、この「当たり」がうまく描けていないことが多いのです。特に次のような問題が起こりがちです。

1. 当たりの線が大きくズレている

当たり自体がある程度正確でなければ、基準が間違っているので、その上に描く絵も歪んでしまいます。

2. 形式的に当たりを描いている

本や動画の真似をして形式的に当たりを描いている場合、目的が漠然としているため、線が補助的に働かず、結果としてバランスが崩れるのです。

3. 観察しないで当たりを描いている

当たりを描くことに一生懸命で対象を見ないで描いている。対象と当たりが合っていないからバランスは改善しない。

このような問題は、当たりを描く前に「観察」ができていないことや、当たりの意味や目的が十分に理解できていないことに原因があります。

解決方法:当たりをつけないで、一発で描く練習

私は、初心者の方に当たりをつけないで一発で描く練習をおすすめしています。そう言うとみなさんできないと言うのですが、取り組んでみると意外と描けることに気がつくはずで す。この方法は、「正確に観察して描く力」を鍛えるのにとても効果的です。

当たりをつけないで一発で描くクロッキーの具体的な練習法

1. 画材を用意する

鉛筆と消しゴムは使いません。ボールペンやサインペン、万年筆、筆ペンなど、消せない画材を用意してください。消せない画材を使う理由は、①直せると思っていると集中力が落ちて精度が甘くなる。②間違いを直すことに労力を使わず、正確に描くことにエネルギーを集中するためです。

ここがポイントで、「正確に描く力」と「間違いを見つけて修正する力」は別な能力です。バランスをお合わせるためにはどちらも必要な能力ですが、分けて考えて練習をした方がわかりやすく、確実に力がつきます。

2. モチーフ(描くもの)を用意する

例えば、バランスを合わせる練習なら工業製品、動きを捉える練習なら植物や手、遠近感なら風景、のように練習のテーマに適したモチーフを選べると上達が早い。でも、初心者ではテーマが分からないと思うので、自分が興味のあるもの、描いていて楽しいものならなんでも良いです。写真とか動画は平面だからダメですよ。実物であることが絶対です。

3. 当たりをつけずに描く

補助線を使わず、一発で線を引きます。ポイントは3つ。

1発で描くときのポイント

①対象からできる限り目を離さないこと、
②ゆっくり長い線で描くこと。意味がなく線を切らない。
③全体像をまず描き切ること。

4. 短時間で仕上げる

はじめは、1枚にかける時間を決めて行います。5分程度を目安にしましょう。長く時間をかけても無駄な線が増えるだけで精度は上がりません。短い時間集中して、正確な線を描く練習するのが効果的です。

この練習で得られる効果

当たりをつけないで一発で描く練習を繰り返すと、次のような効果が期待できます

練習の効果

・観察力の向上
広い視野で対象の全体を観察し、特徴を捉える力がつきます。
・精度の向上
当たりに頼らず、観察しながら感覚で描く力が向上し、正確にバランスよく描けるようになります。
描くスピードが速くなる
当たりの線も迷い線も減るので、無駄な作業が少なくなり、効率よく素早く描けるようになります。
自信がついて上達が早くなる
「当たりがなくてもバランスよく描ける」という実感が自信につながります。自信がつくと迷いが減り、上達が早くなります。

短時間で色々な練習できる「クロッキー」のすすめ

このように短い時間で描く訓練を「クロッキー」(フランス語)またはドローイング(英語)といいます。

クロッキーは、5分〜10分など短い時間で対象の特徴をとらえる練習です。今回はバランスを合わせることにフォーカスしていますが、明暗や形、遠近感や構図など、さまざまなテーマに特化した練習ができるので、強みを伸ばしたり、弱点の克服に適しています。

時間がかからないし大掛かりな道具も必要ないので、初心者でも取り組みやすい練習方法です。続けることで絵画造形の基本が身につきます。

例えば、デッサンでは1枚に2〜3時間かかりますが、初心者が集中してバランス合わせの練習ができるのは、最初の10分〜20分程度です。一方、クロッキーではバランス合わせをテーマに1枚5分で練習できるので、2時間で24回、3時間なら36回も取り組めます。これにより、効率よくバランス合わせに特化した練習ができるのです。

バランスよく描く力は誰にでも備わっている

絵の「バランスを取る力」は、正しく観察ができるようになれば確実に成長します。特別な才能は必要ありません。誰にでも、もともと備わっているからです。

当たりをつけないクロッキーを試して、短時間で効率よくバランス力を鍛えてみてください。少しずつ絵を描く楽しさや、自分の成長を感じられるようになるはずです。

ちょっとしたコツや、上手くいかないときのフォローの仕方は文章では伝わりにくいので、興味のある方はお気軽に無料体験レッスンにご参加ください。

まとめ
  • 絵のバランスが取れない原因は、観察力や形を捉える力の不足です。
  • 当たりをつけない一発描きクロッキーの練習で効率よく改善できます。
  • 誰でも取り組める練習法で、一歩ずつ絵の楽しさを取り戻してみましょう!

よくある質問

絵を描くとき、いつも形が歪んでしまいます。これを改善する方法はありますか?

形が歪む原因は、モチーフを見ている時間が少ないことにあります。「見ているつもりでも、実際は自分が描いている絵を見る時間が長い」という方が多いです。紙を見る割合を「1」、モチーフを見る割合を「9」にするつもりで観察してみましょう。この意識を持つだけで、形が正確になることがあります。

クロッキーで上達した後、次に取り組むべき練習法はありますか?

クロッキーを続けた後は、自分が描きたい作品やテーマに挑戦してみるのがおすすめです。上手く描けないところが出てきたら、それを克服するための練習を追加する、という形が効率的です。必要であればデッサンなどを取り入れるのも良いですが、まずは自由に手を動かして作品を作る楽しさを感じてみてください。

一発描きがどうしても苦手です。初心者でもできる簡単な練習法は?

一発描きが難しいと感じる場合は、誰かにプロセスを見てもらうことも役立ちます。自分では気づきにくい問題点を指摘されることで、新しい発見があるかもしれません。また、ボールペンや消せない画材を使い、短い時間で小さな対象を描く練習から始めると、一発描きへの抵抗感が少なくなります。

練習しても上達を感じられません。モチベーションを保つにはどうしたらいいですか?

練習しているのに上達が感じられないときは、練習方法が間違っている場合があります。ただ、初心者の場合、正しい方法で続ければそれなりに成果を実感できることが多いです。上達が停滞しているように感じても、焦らず、成長を小さな部分で探してみてください。続けていく中で、必ず変化を感じられる時が来ます。

クロッキーをデジタルツールで練習しても効果はありますか?

クロッキーはアナログで行う方が効果的です。デジタルツールは、筆圧や線の太さを自由に調整できるため、自分の描く感覚が曖昧になることがあります。一方、アナログでは、描く手の動きや感覚をより意識できるため、初心者にとって大切な基礎力を鍛えやすいです。

バランスを取るためにおすすめの画材は何ですか?

筆ペンを使うのがおすすめです。筆圧や速度の調整が少し難しいため、練習には最適です。扱いが難しい分、自然と手のコントロール力が鍛えられ、バランス感覚も向上します。最初は使いにくいと感じるかもしれませんが、慣れると線を自由に操れる感覚が得られるでしょう。

クロッキーはどれくらいの枚数を目標にすべきですか?

1日6〜10枚を目安に、1枚あたり5分程度で描いてみてください。このペースを1か月続ければ、観察力や描写スピードが飛躍的に向上するはずです。あまり枚数にこだわらず、短時間で集中して描くことを意識すると、負担なく続けられます。

観察力を鍛えるために日常生活でできることはありますか?

観察力を鍛えるには、日常生活で物を「比較する」癖をつけるのがおすすめです。例えば、「顔と体の大きさ」「足首と太ももの太さ」「手と足の長さ」などを意識して見比べてみてください。比率やバランスを意識する習慣を身につけることで、観察力が自然と磨かれていきます。

クロッキーの対象物を選ぶ際のコツはありますか?

例えば、バランスを合わせる練習なら形がはっきりしている工業製品、動きを捉える練習なら植物や手など生きているもののリズムを感じる練習をするといい。遠近感を描きたいなら風景、のように練習のテーマに適したモチーフを選べると上達が早い。

でも、初心者にはテーマが分からないと思うので、自分が興味のあるもの、描いていて楽しいものならなんでも良いです。写真とか動画は平面だからダメです。実物であることが絶対です。

この記事を書いた人

美術指導歴は約20年。

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