はじめまして
こんにちは。「万象舎(ばんしょうしゃ)美術部」の篠原敬典です。私は20年近く、さまざまな場所で幅広い年齢層の方々に美術を教えてきました。
私が美術を教えるときに大切にしているのは、みなさんが安心して、自由に、制作を楽しめる環境を創ることです。
美術の先生をはじめたきっかけ
私は子どものころから人前に出るのが苦手だったし、人がたくさんいるところも嫌いでした。母に「教えるのが上手いから先生に向いている」と言われたことはあったけど、先生は絶対になりたくない仕事の一つでした。
それが、渋々行った教育実習で、美術を通じてコミュニケーションを取るのが楽しいと思ったのです。
美術の先生は意外と向いているかもしれない、と思ったのが美術を教える仕事を始めたきっかけです。まさかこんなに長く続けることになるとは思いませんでした。
自由に作るのが大好きだった
私は幼いころから想像した絵を描いたり、好きな漫画の模写をしたり、粘土で作ることが大好きでした。
大学では彫刻を専攻し、卒業後は絵画、写真、木工、版画、デザイン、金継ぎ、籠作りなど、さまざまな表現を研究しました。創ることは、今でも私の一番の楽しみです。
でも、決まった正解がなくて、自由であることが美術の一番の魅力なのに、学校や一般的な絵画教室では、テーマや使用する材料が決まっていて、みんなで同じことをするのが嫌でした。
私は作るものも、材料も自分で決めたいから、もっと自由に表現できる場所があればいいのにと思ってました。
だから、私の教室は自由を一番大切にしています。
篠原の作品↓
美大受験の挫折と再起
子どものころは、想像した絵を描くのが好きで、実物を見たままに描くデッサンは好きではないので、ほとんどしたことがありませんでした。
だから美大を目指して予備校に通い始めたとき、周りのレベルについていけず、すっかり自信を失ってしまいました。
でも、このままでは大学には入れないと思って覚悟を決めて、毎日デッサンをするようになってから、物の見方が変わって上達し始めたらデッサンが好きになりました。
デッサンができるようになって自信を取り戻したし、視野が広くなって美術の楽しさや奥深さをもっと感じられるようになりました。
そして何より、デッサンをすると地力がつくので、自分が作りたいもを自由に作れる力がつきます。
だから、もっと上達したい人や、自由に表現できるようになりたい人にはデッサンをお勧めします。はじめはちょっと難しいけれど、美術がすごく楽しくなります。
美術を教える意味について考えた
大学を卒業し、中学校で美術の先生をしていたときに、「美術教育は何のためにあるんだろう?」と改めて考えました。
学校には、美術に興味がない生徒や苦手意識を持った子どもがたくさんいます。そして学校は社会で生きていくための力を育てる場所だと私は考えていました。
だから、どうすれば美術に興味を持ってもらえるのか、社会に出て役に立つ美術の授業にするには何を教えるべきなのか。公教育の場に立って、根本から考えるきっかけになりました。
幼児の教室で学んだこと
中学校の講師を辞めてから、知り合いに頼まれて、年中や年長の子どもたちと、その保護者を対象にした親子美術教室を始めました。
さまざまな素材に触れる機会を作る、子どもたちが自由に制作し表現できる場にしたいと考えました。
たとえば、今日は絵を描こうとか、何かを作ろう、ではなくて、普段触れることがない40kgの大きな粘土の塊や、数メートルの長い紙を使ったり、子どもたちの好奇心を掻き立てるような素材を用意して、自分から作れるように工夫しました。
幼児期の純粋な好奇心や発想の豊かさに触れて、人は誰もが創造する力を持っている、と実感しました。
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児童相談所一時保護所で自由工作
これまでの指導経験で、特に印象的だったのは、児童相談所一時保護所での指導です。
そこで一番大切にしたのは、「自由に安心して制作できる環境」を作ることでした。わたしが働き始めた頃の一時保護所は、虐待を受けた子どもたちを保護しているのにとても厳しい指導をしていました。
だから自由な時間、心が休まる場が少ない子どもたちに、少しでも自由を感じ、心を癒す場にしたいと思いました。
さまざまな材料を用意し、子どもたちが興味を持ったものを自由に使えるようにしました。作るものも、道具や材料も、仕上げるタイミングも自分で決めてもらいました。評価を設けず、上手い下手を気にしなくて良い環境を整えることで、子どもたちがのびのびと創作できるようにしました。
一般的に、自由にしていいと言われると困ってしまう人が多いと言われているけれど、1か月以上入所した子どもで、自分から作らなかった子どもは一人もいませんでした。
ここでの5年間の経験を通して、「創造性は誰にでも備わっていて、それを引き出すには安心できる環境が必要だ」と強く感じました。
デッサン教室の講師で研究したこと
もう一つ大きな経験になったのが、漫画・イラスト系のカルチャースクールでのデッサンクラスの講師です。8年間教えました。
習いにくる方は、デッサンが上達したいのではなくて、漫画やイラストを描けるようになりたくて学びに来ていました。だから普通にデッサンを教えるだけでは意味がないと思いました。
3か月の講座だから、短期間で成果を出すために、効率的で効果的な練習方法を研究しました。たとえば、バランスを合わせる力をつけるためにクロッキーをしたり、立体を理解するために粘土を使ったり、さまざまな方法を実験し、検証して、一人ひとりの目的に合わせた練習方法を研究しました。
美術を通して伝えたいこと
私は、美術を通じて「自分の人生を生きる力」を育むことができたらいいなと思っています。
絵を描いたり、物を作ったりすることは、自分の気持ちや考えを形にして表現することです。制作を通じて、自分の新しい一面に気づいたり、自分の心を感じることが「自分の人生を生きる力」につながります。
現代はスマートフォンやSNS、動画などがあふれ、「自分と向き合う時間」を失いがちです。だから、美術を通して「自分と向き合い、自分の時間を取り戻す」ことが大切だと思っています。
アーティストだけの特別な美術ではなく、誰もがよりよく生きるための美術を伝えたいと思っています。
ちょっと大袈裟な話になってしまいましたが、大人でも子どもでも、描くことや作ることが好きな方、上手になりたい人、楽しみたい人。美術に少しでも興味がある方、または何か新しいことを探している方は、ぜひ体験で気軽に遊びに来てください。
皆さんと一緒に、美術を通じて楽しい時間を提供できる場を作れたらいいなと思っています。