コンセプトは楽しむこと
私は、美術教育において最も大切なことは「楽しむこと」だと考えています。絵を描いたりものを作ったりする楽しさを通じて、豊かな感受性が育まれ、心に湧き上がる感情やイメージを表現する工夫が思考の幅を広げ、創造性を高めます。そして、こうした創造の力が人生を豊かにし、創造的に生きる力へとつながると信じています。
この理念のもと、一人ひとりが「自由な心で制作を楽しむ」環境を大切にしています。
幼児期・小学校低学年:自由な表現力を伸ばす
幼児期から小学校低学年では、観察力や技術にこだわらず、自由な心を育むことを重視しています。特にこの時期は、さまざまな素材に触れ、フリースタイルで作品を作る経験がとても大切です。自分の感覚に従い、思いのままに手を動かすこと。それ自体が価値のある体験です。
美術には決まった正解がありません。同じテーマや素材で皆が同じ作品を作る形式では、自分らしい表現を見失うこともあります。「教わらないと作れない」「評価が怖い」という不安から自由な表現が制限されてしまうのです。知識が少ない今だからこそ、意外な使い方や新しい発見が生まれ、豊かな創造力が発揮されます。まずは「自由に、安心して作る場」が重要だと考えています。
小学校高学年から中学生・高校生:デッサン力を養う
小学校高学年から高校生にかけては、表現に対する意欲が強まり、もっと上手に、もっと自分らしく表現したいという気持ちが育ってきます。この時期には、表現を具体化するための「デッサン力」を養うことが重要です。
デッサン力とは、「観察する力」「感じ取る力」「考える力」を総合したものであり、観察力が豊かになることで、今まで気づかなかった美しさや構造に感動し、表現意欲がさらに高まります。自分の感情や発見をどのように表現するかを考える力が身につくと、独自の作品を生み出す基盤が整うのです。
デッサン力から造形力へ
観察力・感受性・思考力が育つと、基本的な表現が自由にできるようになります。しかし、さらに表現の幅を広げたいと思うときには、道具や素材の扱い方といった「造形力」が必要になります。デッサン力が基礎として身についていると、こうした技術もスムーズに使いこなすことができるようになります。
知識や技術は、ただ覚えるだけでなく、自分の表現に役立てることが重要です。デッサン力があるからこそ、技術を単なる手段として終わらせず、自分の内面を表現するために活用できるのです。